ポケベルを思い出してほしい。知らない人はイメージをつかんでほしい。
それぞれのポケベルにはベル番という電話番号があって、そこに電話をかけるとメッセージの入力を求められる。スマホのフリック入力に似ているが少し違って、ベル打ちで「アイシテル」と送るためには「11 12 32 44 93」と入力する。日本語50音の子音と母音の組み合わせだ。
全角カタカナを14文字まで受信できる。誰から届いたメッセージかわからないので、テキスト中に名前を入れる必要がある。「オハヨウ ツネ」という感じで。
街で「ちょっとベル打ってくる」と言って緑の公衆電話にテレフォンカードを入れ、ものすごい早打ちで事を済ます。これはトータル数秒で終わる。時には公衆電話の順番待ちもあったが、若い子の頭キレッキレのベル打ちに待ち時間はない。
僕は高校生だった。ある日、知らない人からポケベルが鳴った。
「コンニチハ イマナニシテルノ?」
やり取りをすると2歳年上の女の子だった。ベル友ができた。
オハヨウ、オヤスミ、いま何してる?、どこにいる?など、たわいもないやり取りをした。だんだんエスカレートしていき、アイシテルとか、オヤスミ チュッとか、毎日ベルを打ちあった。
お互いの顔が写ったプリクラを交換しようということになり、大きなゲームセンターの一角にプリクラを貼りあって、プリクラ交換をした。積極的に会おうとしなかったのは、シャイな童貞だったからだ。
時代は動いていた。PHS、通称ピッチである。テキストベースのコミュニケーションから、音声通話へと変化していた。
お互いにピッチを持った。番号の交換はしたが、どちらからも電話をかけることはなかった。「ピッチを持ったから、ポケベルは1ヶ月後に解約するね」とポケベルでやり取りをした。
1ヶ月後、こうしてベル友が終わった。