「スマホ脳 (新潮新書) | アンデシュ・ハンセン」は、スウェーデンの精神科医が書いた本。スマホの使い方については、さんざん耳にするテーマだけど。
ここ1年間くらい気になっていることがある。
- 「ちょっとメール返信させて」とスマホのスクリーンをみた瞬間に、このリアルの場所からはいなくなる。そこから10分間ほど動かなくなる。
- 数分おきに何度もスマホを手に取っては通知を確認する。聞くと、特に何か連絡を待っているわけではない。
- 飲食店でお互いにスマホを見つめるふたり、もしくは家族。
どれも昔からそうだった訳ではなくて、ここ数年で体験したことだ。ここ1年間で、おそらくテレワークによって自宅でスマホを触っている時間が増えたことが原因か、異常な光景が広がる。
少なくとも「スマホ脳」を読んでいる間はスマホから離れられるので、スマホの使い方やインストールするべきアプリについて考えるきっかけになればいいなと思います。
以下、要約メモ。
人間の身体や脳は、飢餓や干ばつ、感染症から身を守れるように進化してきた。だから人間はカロリーを強く欲する。カロリーが実質無料のような今の世界で、そんな衝動があるのは非常にまずい。人類の歴史の99.9%の期間、私たちの生存を維持してきた生物的なメカニズムが、突如として害を引き起こすようになった。現在では飢餓よりも食べ過ぎで亡くなる人の方が多い。
人間は現代社会に適応するようには進化していない。
SNSの目的は、ユーザーからできるだけたくさんの時間を奪うこと。SNSに費やす1分1分が企業にとっては価値を持ち、広告が売れる。
ネガティブな感情はポジティブな感情に勝る。強いストレスや心配事があると、それ以外のことを考えられなくなる。長期にわたってストレスホルモンの量が増えていると、脳はちゃんと機能しなくなる。常に「闘争か逃走か」という局面に立たされていると、闘争と逃走以外のことをすべて放棄してしまう。その結果、些細なことでも強い苛立ちを感じるようになる。
ドーパミンは報酬物質と呼ばれるが、ドーパミンのもっとも重要な役割は私たちを元気にすることではなく、何に集中するかを選択させること。つまり人間の原動力でもある。
SNSは通知を保留することがある。そうやって私たちの報酬系が最高潮にあおられる瞬間を待つ。刺激を少しずつ分散することで、デジタルなご褒美への期待値を最大限にもできる。
脳にはマルチタスクというすごい能力があるが、知能の処理能力には限定された領域がある。それは集中だ。私たちは一度にひとつのことにしか集中できない。マルチタスクを頻繁にやる人は、情報を選択して無視するのが苦手なようだ。つまり、気が散る人はほぼ確実に、脳が最適な状態で動かなくなる。
スマホの通知をオフにしてしまえばいいという、そんなに単純な話ではない。スマホには人間の注意を引きつける力があり、ポケットにしまうくらいでは抑えられない。学生を対象とした記憶力と集中力の調査では、スマホを教室の外に置いた学生は、スマホをポケットにしまった学生よりもよい結果がでた。ポケットの中のスマホを、脳は無意識のレベルで感知し、「スマホを無視すること」に知能の処理能力を使ってしまうようだ。その結果、本来の集中力を発揮できなくなる。
「Google効果」や」デジタル性健忘」と呼ばれるのは、情報が別の場所に保存されているからと、脳が自分では覚えようとしない現象だ。
情報を作業記憶から長期記憶へと移動するための「固定化」は、元データを脳のランダム・アクセス・メモリからハードディスクに移すだけの作業ではない。情報をその人の個人的体験を融合させて、私たちが「知識」と呼ぶものを構築するのだ。
テレビを観ながら本を読むなど、複数の作業を同時にしようとすると、脳は情報を間違った場所に送ることになる。
人間は眠るとき、安全な状態を確保するために、周囲の存在を徐々にスイッチオフしていく。ベッドに入る前に寝付きが悪くなるのはそのせいだ。脳が進化してきたとおりに機能しているだけ。
ブルーライトは身体を目覚めさせ(メラトニンとコルチゾール)、行動にでる体勢を整え(コルチゾール)、エネルギーの貯蔵庫を満タンにして脂肪を蓄える(グレリン)ことに長けている。夜遅くスマホを使うと食欲が増進する可能性がある。
他の人が何をしているのか、お互いにどんな関係にあるのかを知っていると有利だったため、人間にはそういう情報を得たいという強い欲求がある。他人の情報を知ったり広めたりすると満足感を感じるように脳のメカニズムが進化してきた。私たちが生き延びるのを助けたのは、食べ物とゴシップだった。
平均すると、SNSに1日30分以上もかけている。同じだけの時間を今後も費やすなら、現在の20歳が80歳になる頃には、人生の5年間をSNSに費やす計算になる。
自分のことを話しているときの方が、他人の話をしているときの比べて、脳の複数カ所で活動が活発になっていた。内側前頭前皮質と、報酬中枢と呼ばれる側坐核。人類の進化の期間のほとんど、聴衆は1人から数人程度だった。現在はSNSのおかげで思いも寄らない可能性を与えられた。
本当の人間関係に時間を使う人ほど幸福感が増していた。10代を含む1,500人を対象にした調査では、7割が「Instagramのせいで自分は魅力的ではないと感じるようになった」と答えている。12〜16歳の回答者の半数近くが「SNSを利用したあと、自分の容姿に不満を感じる」と答えた。男子に比べて女子の方がさらに自信が揺らぐようだ。彼女たちは常に「完璧な容姿」や「完璧な人生」の写真をみせられ、自分と他人を比較するのをやめられなくなる。
SNSで常に他人と自分を比較し、1秒ごとに何百人という同年代の若者に批評される。そして、自分がヒエラルキーの最下位にいるように感じてしまう。
実はFacebook上のアクティビティで積極的なコミュニケーションはわずか9%だ。たいていは尽きることのない投稿や画像を次から次へと見ているだけ。SNSを社交生活をさらに引き立てる手段として利用している人たちの多くは良い影響を受ける。対して、社交生活の代わりにSNSを利用する人たちは精神状態を悪くする。
ドアに指を挟んだ人の写真をみると、それをみた人の脳でも指を挟んだ人の脳と同じような活動が起こる。脳の最も発達した部分である前頭葉が成熟する幼児期や10代に、他人の考えや気持ちを理解しようとする衝動は生来のものだ。兄弟や友達と対面でやりとりすることで、ゆっくりと経験の貯蔵庫を満たしていく。そうやって他人の心境や考えや意図をうまく認識できるようになる。
衝動を制御する能力が完全には成熟していない上に、激しい興奮を感じる時期と重なり、若者は危険を冒すことができる。
Twitterを立ち上げると青い画面の中で白い鳥がはばたき、スクリーンを埋め尽くすほど大きくなる。それからツイートが現れる。これはログインに時間がかかるわけでも接続状態が悪いせいでもない。待たせることでスリルを増加させているのだ。この遅れは、脳の報酬システムを最大限にあおるよう入念に計算されている。SNSのプッシュ通知やチャットの着信音がどれも似たような音なのも偶然ではない。脳の欲求をハッキングしているのだ。
人間の祖先の人骨の多くに、頭蓋骨の左側に損傷がある。右利きの人間に殴られたのだろう。人間を「自分たち」と「あいつら」に分類する、社交的衝動から生まれたものだ。
デジタル・デトックスをして時間を制限しただけで調子がよくなる。時間をどのくらい制限すればいいのか、研究では無作為に30分と指定されただけだ。
何かが影響しているかどうか知りたければ、それを取り除いてみるという方法がある。10カ国の学生を1,000人集めて、スマホをなくせばどんな影響があるかを調べようとしたが、半数以上が実験を中断してしまった。その理由は全員「禁断症状」のせいだという。
あらゆる種類の運動が知能に良い影響を与える。散歩、ヨガ、ランニング、筋トレ、どれも効果があった。運動によって一番改善されたのは、知能的な処理速度だ。
私たちは進化を続けている。進化の基本はその環境下でメリットにならない特性をふるいにかけることだ。メリットにならない特性を持つ人は生き延びられず、遺伝子を後世に残すことができない。シロクマが白い毛を獲得したのは、白い毛ではないクマは死ぬ確率が高かったからだ。
ほとんど全員が元気になるコツがある。睡眠を優先し、身体をよく動かし、社会的な関係を作り、適度なストレスに自分をさらし、スマホの使用を制限すること。