hide with Spread Beaver の INA もとい、音楽プロデューサー/エンジニア/マニピュレーターの INA さんによるワークショップに行ってきた。

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『プログラマー編』&『プロデューサー編』同時開催!!

hide の「ピンク スパイダー」がリリースされたとき、音楽雑誌では「サイボーグロック」という言葉が羅列していた。ピンク スパイダーはサイボーグロックである。グルーヴを完全に制御している。hide のインタビュー記事にはそう書かれていた。

サイボーグロックとは何か? 何をどう制御しているのか? を実際に DAW の画面を見ながら紐解いていく内容だったので、長丁場のワークショップにもかかわらず最後まで楽しめた。個人的解釈なので、少しニュアンスが違う部分があるかもだけど、以下にまとめたい。

「子 ギャル」の制作秘話はびっくりした。hide の声ひとつひとつを INA が手作業で仕上げていったのだ。

プログラマー編

hide は新しもの好きだったので、打ち込みを中心とした楽曲作りを行った。曲のコアな部分は別の話だけど、曲のアレンジはファッションと同じで時代に合わせて変えていけば良いという考えだった。

最初のサイボーグロック[第一段階]

最初のサイボーグロックでは、人のグルーヴをいったん消して、デジタルでグルーヴを出していこうとした。打ち込みのトラックはシステマティックなグルーヴだが、クオンタイズを40%かけて機械のグルーヴを出した。その他のループサウンドもクオンタイズにあわせる。そうすると生ドラムの音が他とズレることになる。1/1000秒のズレだとしても、そのズレはハッキリと聴き取れる。

そこで、生ドラムの音をひとつひとつ切って編集していき、クオンタイズをかけたループサウンドのタイミングに合わせていく。小節の頭の拍をあわせたり、キメの部分をあわせることで全体のグルーヴを統一させる。音が同じ場所に置かれているとパンチ力が増す。

リズムトラックができたあとベースやギターも同じく編集していくのだが、弦楽器はピックで弾いてから音が立ち上がるまでに時間がかかる。その立ち上がりの音を意図的に残すことで、より音のエッジがたつ。音を移動した後に、編集でできたプチ音をクロスフェードで消していく。

これらの編集はすべて完璧にやっていかないとうまくいかない。曲全体を完全に制御することが必要。

保険のために、レコーディングではギターアンプを通った音しか録らないのではなく、ラインの音も録っておく。そうすることで、後からエフェクターをかけ直せる。

進化系サイボーグロック[第二段階]

Dope HEADz でさらにサイボーグロックを進化させていった。ループサウンドと生ドラムの融合。

Dope HEADz のバラードでは、同時に1音しか鳴らない70年代のシンセサイザーのような作り方をしてみた。コードを分解して単音にし、それぞれの音が自在に変化していくオーケストレーションのような手法で曲の世界観を表現した。これだけ音が入っていても、それぞれの音に意味を持たせることで破綻しない。

パンニングはすべて一緒にはしない。必ず音が出る場所をズラしていく。センターからシンメトリーに配置するなど。

さらに進化系サイボーグロック[第三段階]

hide の未発表曲「In Motion、Junk Story」では、打ち込みではなく生ドラムにした。音源としてあったデモ演奏を元に編集で仕上げている。

これまでのサイボーグロックでは、人のグルーヴを消してデジタルでグルーヴを作っていたが、うまく生のグルーヴも残しながら編集していった。生音がズレているのを完全にあわせないで、半分くらいをデジタルのグルーヴに合わせていくイメージ。すべてを編集するのではなく、肝心なところだけを編集していく。まずは小節の頭の拍をあわせていく。そうするとグルーヴもあるし、要所要所の音のタイミングがそろっていてキッチリもしている。

サイボーグロックの極み[第四段階]

打ち込みと演奏の両方の良さをあわせもったもの。ミュージシャンがバンドの音としてずばらしいグルーヴを出せるのだから、人が演奏するグルーヴを最大限に活かしたい。

生ドラムをループサウンドにあわせるのではなく、ループサウンドを生ドラムのタイミングにあわせた。コンピュータを人間に追従させることにした。これまでのサイボーグロックのやり方をひっくり返したら、より人間的なサイボーグロックとなった。

プロデューサー編

プロデュースはしっかりとしたコンセプトだてをして、常に主観と客観とを切り替えて進行していく。

アーティストのリミックス

既存のファンが聞いても違和感がないようなリミックス。原曲のイメージ、印象的なフレーズを大切にする。

T.M.Revolution の「HIGH PRESSURE」では、これまでも色々なリミックスがあったが、新しいロックアレンジというオファーを受け、Zilch っぽいニュアンスでリミックスした。(インロトのギターが完全に Zilch!笑)

Dragon Ash の IKÜZÖNE のトリビュートアルバムでは、曲中に「百合の咲く場所で」のメロディを入れた。その時のコメントがぐっとくる。

Dragon Ashにhideが大好きな奴がいるって紹介され、それ以来、よく一緒に呑んで遊んだな。泣いたり笑ったり歌ったり鼻血だしたり。
リミックス、語り尽くせない全ての思い出を音に込めて奏でました。あいつらのいる世界まで届きますように。
R.I.P. RockStars
――INA

hide の「FLAME」のリミックスでは、Cafe Le Psyence という架空のバーで演奏しているような表現にした。サウンドだけで映画のようなストーリー性をつけた。お客さんの話し声や食事の音などが入っている。FLAME はボーカルトラックがデモ版しかなかったため、ノイズがたくさん入っていた。それをごまかす意味でもザワザワ感を入れた。

「子 ギャル」制作秘話

冒頭にも書いたが、「子 ギャル」の制作秘話はびっくりした。hide の声ひとつひとつを INA が手作業で仕上げていった。日本語の50音すべてをこれまでの楽曲の中から拾っていった。ブレスや数パターンの音を集めて一音一音つなげていった。無い音は母音から作っていった。

「子 ギャル」は YAMAHA の VOCALOID で作られたことになっているが、「YAMAHA の VOCALOID 企画があったおかげで実現できた hide の新曲」という言い方が正しいだろう。

最初に YAMAHA が hide の声として VOCALOID の打ち込みデータをもってきたが、それは VOCALOID を超えてはいなかった。INA は「これを hide の作品として世に出すのだったら相当な調整が必要だ」と YAMAHA に伝えた。INA は3ヶ月こもって hide の声のクオリティを高めていった。一音一音 VOCALOID から生声へとさしかえていった。

hide のソロデビュー以来、hide というアーティストを松本秀人と INA のふたりでプロデュースしてきたから。INA は hide に編集をまかされていたから。だから INA にはこれができた。

最初に YAMAHA が作った VOCALOID の声を聴かせてもらったが、一同失笑。

INA「最初の VOCALOID のままで、はいどうぞ hide の曲できました!って世に出してたら、いま僕はここにいないと思うんですけど…」一同大失笑。

hide の死後にリリースされた曲がいくつかあるが、その中でも HURRY GO ROUND の時は本当に辛かったようだ。INA は使命感があったからやり遂げることができたと。

たとえ時間をかけて作った曲でも、どうしても納得できないことがある。たとえその曲を捨てたとしても、それまでに培ったものがあるから必ず次にもっと良い物ができる。少しでも気にかかる部分があるのなら、それはやった方がいい。捨ててもゼロになることはない。

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