ゴールデンウィーク、「どこでもいいよ」と言う母を助手席に乗せて、五箇山へ向かった。
GWに帰省して3日目だった。朝食を食べた後に母から「どこか連れて行ってよ」と言われた。「今日はこれで払って」と一万円札を受け取った。こうやって直接的に言われたことも、そのためにお金を受け取ったことも初めてだった。
高速道路を走って五箇山で降りた。峠を走って日帰り温泉に行った。二人とも長湯ではないので上がるタイミングはほぼ同じになる。車で数分走って「五箇山そば」の看板があるお店に入った。外国人の観光客の団体がいて、ササラを持って鳴らしていた。コキリコ節が始まり、賑やかな店内だった。「うるさくてごめんなさいね」と言いに来た店員さんに、母は「全然いいんですよ、賑やかでいいです」と返した。
ドライブをしながら自宅の方向へと向かった。峠をそのまま走り、下道で景色を見ながら二時間ほど走った。道の駅に寄ったとき、母は「いつまであんたとこうやってどこか一緒に行けるか、わからないからね」と言った。途中スーパーに寄って夕食の食材を買った。結果、母は今日一日自分の財布を手にすることはなかった。
自宅に着いて間も無く、ふたりで早めの夕食を済ませた。茶の間から眺める庭には湿った風が吹き、ツバメがひらひらと舞う。しだいに小雨が降り出して、蛙が鳴き出した。まだ早いが、夏の夜を思い出した。