小学生の頃、林間学校で岩魚の手づかみをした。清流ではあるが、岩でなんとなく囲われているので岩魚が逃げ出すことはない。そこで岩魚を追い込んで手づかみし、カッターで内臓を取り出して串に刺して塩焼きにする。
その日の夕食は岩魚と五箇山蕎麦だった。
小学校の畑で蕎麦を作っていたので、それをひいてもらい、あらかじめこねられたものを自分たちで切った。
大きな鍋で一緒くたに茹でられた蕎麦は、すくうと茹で加減に差がある。お湯からあげた後、水で締めていなかったと思う。
伊勢うどんのような柔らかい蕎麦もあれば、二郎のような歯ごたえのある蕎麦もあった。そばがきのような塊もあった。とにかく太かったし、均一ではなかった。
ここまで壮大な不味い体験というのは後にも先にもない。久しぶりに会った地元の友達が、蕎麦が食べれないという。話を聞くと、あの林間学校での蕎麦づくり体験が原因だ。同じようなことをこれまで3人以上から聞いた。
五箇山蕎麦は十割蕎麦だ。小麦粉を使わない分、繊細な調理法を要求される。
最初の体験はたくさんの人生に影響を与える。そうして人は形成されていく。