もくじ

「R25」のつくりかた」を元に、要約メモしておきたいと思います。

01_少人数の組織で「業界常識」に立ち向かう

左遷だと本気で思ったプロジェクト異動のお知らせ

ペーパーポータル構想の全貌は以下のようなもの。

  • 活字を読まない若い世代をターゲットにしたフリーマガジンを作る
  • ポータルと名乗る以上、首都圏で100万部規模のリーチが必要
  • 今までのリクルートとは違う、まったく新しい価値をもったメディアを目指してほしい

さらに、テストマーケティングを本格的に実施するのは、4ヶ月後の2004年3月。成否の基準を決めるマイルストーンは3つ。

  • テスト発行した部数に対してハケ率が7割を超えること
  • 想定しているターミナル駅の改札近くに配布ラックを置くことができること
  • フリーマガジンの中に、ナショナルクライアント(大手広告主)の広告が入ってくること

02_M1層はホンネを語ってくれない

気に入った商品も人前で言えない

M1層は「騙されたくない、損をしたくない、傷つきたくないという気持ちが強い世代だ」と言われるが、背景には「あまりに情報量が多すぎる」ということがある。いろんな情報を吟味して、常に「誰から見ても正しい」と認められないと傷つく可能性が高い。だから、それを避けようという意識が働くし、疲れてしまう。実際、驚くほど意外なことを知っていたりするし、先のことまで考えていたりする。
また、「社会がなんとかしてくれる」とは思っていない。社会に対してものすごく冷めた目で見ている。自己責任の意識が強いのはたくましいことではあるが、それはとても辛いこと、苦しいことでもある。

「実は真剣ではなかった」という態度のワケ

頑張れば報われると信じてやっていても、実際に報われることは少ない。傷つかないようにどうするかといえば、「実は真剣ではなかった」という態度をしておく。最初からダルいフリをしておけば、みっともなくはならない。あれは真剣じゃなかったからいいんだ、と周りにも言い訳ができる。

実際はものすごくピュアな一面もある。地球環境や企業倫理意識も高い。今のままじゃダメだという危機感も持っている。変わらなきゃと思っている。会社が守ってくれるわけじゃないから自分が頑張るしかないという思いもある。

足りているものよりも、足りていないものを

M1層が面白いと思っているものは、すでに世の中にはたくさんある。雑誌、ネット、テレビなど。でも求めていたのは「面白いよりも、役に立つ」というもの。すでにお腹がいっぱいの状態にある「面白い」ものに、さらに「面白い」ものを加えていくのではなく、不足している「役に立つ」を補ってあげること。

疲れているM1層をさりげなく後押しするような「フリーマガジンなのに役に立つ」情報誌をつくる。変わりたがっているし、成長したがっていて、こっそりと不安を抱えて生きているM1層に、大丈夫、ちょっとずつ前に進んでいこう、心配することはない、そのうち良いことも待っているさ、みんなの気持ちはわかる、応援するよ、という気持ちで向かう。そしてここから、R25の「やってはいけないこと」が生まれた。それは「知ったかぶりをしない」こと。「無責任に頑張れとは言わない」こと。

M1層のビジネスマンは、情報に敏感で、多忙な中、時間を有効に活用したがっている。その内面は、自分の価値に一番関心があり、自意識過剰でカッコつけ。そこそこイケてると思っているが、確信はない。顔には出さないが不安感もある。だから実は助言が欲しい」このようにターゲットの定義を定めた。

03_M1層に合わせた記事づくり&配布作戦

このフリーマガジンをどこで読んでもらうのか

コンテンツのイメージが見えてきた次に現れたのは、自分の部屋で読んでもらうのか、会社で読んでもらうのか、通勤時間なのかという課題。仕事の時は仕事の情報しか興味がわかないし取得しない。家に帰ると自分の興味のある情報だけを取得する。つまり政治や経済の変化といった、仕事とプライベートの中間にあるような、公共性の高い社会情報を取得する時間がほとんどないことがわかった。家でネットやニュース報道を見るが、きちんとかみ砕いて理解する時間はなかった。聞けば、そういうことは余裕があるときでなければできないということだった。

電車の中は、競合となるメディアも多いが、マインドシェアはどれもそんなに高くない。会社帰りの電車の中では、ケータイメールをしている、ゲームをしている、中吊りを見る、本や雑誌を読む、ぼーっとしている、などがあるが、特に決まっていないという意見も多かった。では週に一回、ぼーっとしている会社帰りの電車に乗っている時間に、30分ほどで「今」がわかって、面白いより役に立つ無料の情報誌が読めるとなればどうだろうか、インタビューでM1層にぶつけてみると、反応は悪くなかった。

「800字のコラム」「ONとOFFの境目」というキーコンセプト

電車の中で暇つぶしに読むわけなので、読みやすさを意識しなければならない。もとより文字をあまり読まない層。そこで浮かんだのが、ちょうど首都圏の電車で駅一つ分を移動する2分くらいで読める分量のコラムというコンセプト。約800字の同じ分量のものがカセット状に並んでいく構造。ページを上下に区切り、テーマごとに記事を展開していく。タイトルとランキング表、写真を見るだけでもなんとなく全体像が見えてくる。新聞に出ているような事象を「そもそも」の話として平易に解説していく。また、フォーマット状にすることで編集のオペレーションが簡単になり、少ない人数でたくさん記事を生産できるという利点もあった。

会社というONの場所から、家というOFFの場所へと帰っていくので、頭の中もゆるやかにOFFモードに切り替わっていく。フリーマガジンの台割もそれに沿ったものにする。この流れをつくったところで、広告主もイメージできるようになった。フリーマガジンを読んで駅を降りた時に寄るところ、あるいは消費するもの。M1層は駅から自宅に帰るまでに、必ずといっていいほどコンビニに立ち寄る。そうすると広告主はコンビニ向け商材を広く持つビールメーカーや飲料メーカー、食品メーカーなどがターゲットなのではないか。立ち寄る直前のコンタクトポイントでM1層が見るメディアですよ、という価値設定ができる。

さらに、1日のONとOFFの境目が帰りの電車ならば、一週間のONとOFFの境目は木曜日。

新刊ではなく、テーマに合わせて本を紹介

「そもそも」論を読んで新聞を読む力を身につける。興味を持った内容を深堀りするべく、ビジネス誌や経済誌を読む、こうした新聞や雑誌への展開のほか、書籍のポータルにもなりたいと思った。情報の鮮度よりもテーマを重視することにした。

  • ビジネススキルを磨きたくなったら
  • 仕事のストレスを笑いで吹き飛ばそう
  • 女性の気持ちをほどよく理解する
  • 世間のしがらみと上手に付き合う

など、ビジネスでも社会でも、スポーツでも、柔らかいものから硬いものまで、M1層の本音をほどよくくすぐるテーマを探すことに腐心した。

上から目線ではなく、兄貴分として

著名人のインタビューでは、「オレだって不安だった。実は今も不安なんだ。どんなに変わらないよ」と言ってもらう。そうすると写真の取り方、使い方も変わってくるし、レイアウトも書体も変わってくる。カッコイイもの、すごいと思えるものではなくて、もっと自然体で普通の人に見えるものにする。笑顔というより真剣な表情。成功者ですら一生懸命に生きているのだということを読者に感じて欲しいと思った。

M1層へのヒアリングでは、同世代の成功者のインタビューは読みたくないというものがあった。最も読みたいのは40代前後の成功者たち。ちょっと先に、自分がもしかしたらなっているかも知れない成功者の姿がある。同世代の成功者には今すぐには追いつけないけど、これから先なら自分にもチャンスがあると見えてくる。あんな風になってみたいと憧れている人が「大丈夫。オレだって25歳の頃は大したことなかった」と言ってくれることがうれしい。

「サルでもわかる」「いまさら聞けない」はNGワード

「なんだよお前、こんなことも知らないのかよ」という上から目線の空気が伝わってくるのは絶対にやってはいけない。あらゆるページにでてくるキャッチフレーズやタイトル、見出しにはかなり気を遣った。

アイドルを使った表紙がいい、と当初は思ったが……

兄貴的な40代の著名人が表紙のもの、今をときめくアイドルが表紙のもの、ランキン&レビューのようなイメージ写真のもの、同じくその写真を小さくしたもの、コンテンツ風のデザインをしたものに小さな写真を入れたもの、そして今のデザイン、さらに配布日を大きく印象づけたデザインのもの。M1層にインタビューを行った結果、アイドルの表紙はありえないという圧倒的な数の返答だった。理由は「恥ずかしいから」。スーツ姿で電車の中で読むイメージだと、どうせなら賢く見えたほうがいい。やはり文字主体のデザインでいいのだと確信した。

R25を配布するラックをどう設置していくか

「鉄道の通路にある看板広告は、そのフタを外すと中が奥まっている。このスペースを利用してラックを作ればいいんじゃないか」このアイデアのおかげで、思った以上に駅での大量配布が可能になった。通路のスペースに新たにラックを置くのは安全上も問題があるが、看板ラックなら新たにスペースを奪うことはない。

本当に頭の中をのぞかれているような気がした

ランキン&レビューが「アテンション=いまと向き合う」機能だとすれば、兄貴分のインタビューは「モチベーション=勇気が出る」になる。最後を「アクション=行動に向けて動き出す」で完結させるとすれば、「インビテーション=動機づけられる」だった。R25からの「今週の招待状」というニュアンスで、毎号テーマが変わる4ページの特集記事を入れたらいいのではないかと考えた。

04_世の中のちょっとだけ先を行く発想術

R25が取り上げたことがブームのきっかけに

R25の媒体コンセプトを整理するとこのようになる。

  • 誰に:閉塞感の中で「変わらなきゃ」と思っているビジネスマン
  • 何を提供して:街中で手軽に手に入る無料の週刊誌。帰りの通勤電車30分で「いま」がわかる情報誌
  • どんな夢を実現するのか:M1男性の「変わらなきゃ」という気持ちを勇気づけ、行動を支援する。M1世代を元気にし、日本を仕事・消費の両面で活性化する

R25は速報性の機能を捨てた情報誌である

週刊誌で1ヶ月前にネタ会議をするというのは、通常では致命的。R25はその週のニュースの解説ではなく「そもそも」論なので、「そもそも何だっけ」を解説するのが役割。しかし、最初の見開きのページだけは別。R25の週刊誌っぽさ=速報性の演出は、実はこの見開きの2ページがもたらしていると言える。これは印刷・製本の仕方に理由があり、表紙をのぞく最初の8ページのみ、最終校了日を後ろにずらしてもらっている。カレンダーやテレビ欄もこの枠に該当する。特にフォトレビューの2ページのみ、火曜日まで修正が可能になっている。

フリーランスが集まる会議の落とし穴

ネタを出した本人にプレゼンテーションをしてもらわないことにして、ネタの善し悪しを決めるブレーンストーミングに参加して欲しいというスタイルにした。企画が通るか通らないかは別として、10本以上のネタを出す、そしてブレーンストーミングに参加しもらえれば報酬を支払うとした。会議の参加そのものにギャラを支払い、出してもらったネタは誰のものか分からないようにすることで、足の引っ張り合いを防いだ。

無料だからこそ公共性や信頼性が大事

政治や経済、ビジネスなどのまじめなネタ:2(3)
スポーツやIT、新製品などM1層が好みそうなネタ:6(5)
くだらない雑学やちょっとした下ネタ:2
というバランスがちょうどいいと考えた。また、それぞれのネタがタイトルになったとき、カタカナと漢字のバランスなど、そのキーワードが表紙に掲載されることも頭に入れていた。

「パクチーだらけのベトナム料理」の中で

ひとつのターゲティングを深掘りする中で、雑誌がなかりマニアックな、深掘りしすぎたものばかりになってしまっている中、R25はものすごくおいしいお米とお水で炊いたおかゆみたいなものを提示した。競合を意識する時は、紙メディアだけでなく例えば「めちゃイケ」をライバルとして意識したりもした。

05_M1世代とM1商材を結びつける

読者と作り手と広告主のいずれにも価値がある

3つのステークホルダーの正三角形を作ることを意識している。三角形の頂点には読者、右側の角には社内のスタッフや外部のブレーン、左側の角が広告主。

クロスメディアのパッケージが生まれる

純広告だけで告知する方法もあったが、編集記事と連動させて、R25独自の仕掛けを作った。タイアップ広告の前に「たまには2泊3日のプチ旅行でもいかが?」という企画を入れて、八丈島、稚内、能登と3カ所提案を行った。この3カ所は、広告主の航空会社だけが飛んでいる場所だった。おすすめの旅行先に行こうとすると、その航空会社を使うしかないということ。

いまも読者からの評価をシビアに問う

「みんなが知りたいはず、やりたいはず」という自分のやりたい企画に走ってしまいがち。「そのみんなは10人中何人いるの?」と問う。マイナーな企画がダメというわけではなく、「みんなが知っている」を前提に企画を進めていくのと、「知っている人の方が少ない」を前提とするのでは、当然アプローチが変わる。

06_さらにビジネスを広げるために

起きていることを冷静に見つめること

「R25って昔みたいな勢いがなくなったね」「飽きられちゃったかもね」というのは、逆にある程度のマジョリティーを獲得したがゆえのことだとも言える。無くなったら困る、意外に依存度が高い。そういうものに対して、人はそういう反応をすることがある。

すべてWebで見られる、という挑戦

ネットのビジネスでは、検索エンジンやSNSに代表されるコミュニケーションプラットフォームや、決済を伴うECプラットフォームがあるが、R25はこの3つのどれにも入っていないし、規模も小さい。とはいえコンテンツを軸とした成功モデルはあるはず。おそらく答えはWebやモバイルの世界の中にあるのではなく、リアルとの接続にあるのではないかと考えた。

M1層を誰よりも理解した存在になる

今のコミュニケーションに求められているのは、表面上でしゃべっていることの、実はその内側にある本音をつかみ出して、そこをうまく形にしてあげることではないか。「インサイト」という言葉に集約され、洞察力、心の本音を探り当てる力。消費者が自分自身でも気づかない、意識していないような、それでも「いいな、これ」と手を伸ばしてしまうような意識。

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